大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和56年(ワ)1429号 判決

原告

米津清

被告

日本通運株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、金九九二万八〇八九円及び内金九〇二万八〇八九円に対する昭和五六年一二月一五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを八分し、その五を原告の、その余を被告の、各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二六八三万七四一七円及び内金二三九八万八五六一円に対する昭和五六年一二月一五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

昭和五五年九月一一日午後二時ころ、被告会社の従業員である訴外豊田明は、普通貨物自動車(以下「本件事故車」という。)を運転して、兵庫県氷上郡柏原町上小倉二〇五番地先国道一七六号線を西進中、運転を誤り、センターラインをオーバーして対向車線に進入したため、折から右国道を東進してきた訴外原田信一運転の貨物自動車と正面衝突し(以下「本件事故」という。)、本件事故車に同乗していた原告は、頭部外傷二型、右上腕骨骨折、第四腰椎圧迫骨折、右撓骨神経損傷等の傷害を受けた(以下「本件傷害」などという。)。

2  責任原因

被告は、本件当時、本件事故車を所有し、かつ運行に供していた者であるから、自賠責法三条に基づき、本件事故により原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。

3  損害

(一) 入院雑費 一四万円

原告は、本件事故で受けた傷害の治療のため、昭和五五年九月一一日から同五六年一月二八日まで一四〇日間、兵庫県立柏原病院に入院した。その費用(雑費)として一日一〇〇〇円、計一四万円。

(二) 通院費 三万八〇〇〇円

原告は、同傷害の治療のため、高原整形外科に実三三日、兵庫県玉津福祉センターリハビリテーシヨンセンター附属中央病院に実五日、計三八日通院した。一日当たり一〇〇〇円として三万八〇〇〇円。

(三) 後遺症による将来の逸失利益 三八六〇万三四六四円

昭和五六年七月一七日に固定した後遺症は、右手指運動障害、顔面瘢痕、腰痛及び腰部運動制限であり、右三症状に対し、自賠責保険後遺症等級は六級と認定された。右後遺症六級の労働能力喪失率は六七パーセントであり、原告は、昭和一〇年一一月二一日生れの四五歳の男子であつて、六七歳まで労働可能であるので、労働能力喪失期間は二二年、そのホフマン係数は、一四・五八であり、原告の事故当時の年収は三七六万三六一一円であつたので、翌年の年収は五パーセント上昇の三九五万一七九一円であると推定すると、逸失利益は次のとおり算出される。

3,951,791×0.67×14.58=38,603,464

(四) 慰藉料 一〇〇〇万円

原告が本件事故による受傷及び後遺症のため被り、また将来被つていく精神上の苦痛に対する慰藉料は、一〇〇〇万円が相当である。

4  損害填補

原告は、自動車損害賠償責任保険から二〇二九万二九〇三円の支払を受けたほか、被告より、公傷見舞金として、四五〇万円を受領した。

5  弁護士費用 二八四万八八五六円

6  よつて、原告は、3の合計額四八七八万一四六四円から4の額を控除し、かつ5の額を加えた損害金二六八三万七四一七円及び内金二三九八万八五六一円に対する本件事故の後である昭和五六年一二月一五日(訴状送達の日の翌日)から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  請求原因3について

(一) 請求原因3(一)のうち、原告が本件傷害の治療のため一四〇日間入院したことは争わないが、入院雑費の額は争う。一日につき五〇〇円ないし七〇〇円が相当である。

(二) 同3(二)のうち、原告が兵庫県玉津福祉センターリハビリセンター附属中央病院等に合計三八日通院したことは争わないが、損害額は争う。

(三) 同3(三)のうち、原告がその主張の後遺障害を受け、自賠責保険後遺症等級六級と認定されたことは認める。もつとも、腰痛は腰部運動痛であり、後遺症等級は、一一級七号及び七級七号の併合六級である。また、労働能力喪失率、原告の生年月日、労働可能年数、ホフマン係数、原告の年収については争わないが、後遺症による将来の逸失利益の額については争う。

すなわち、原告は、昭和五六年七月一七日治癒しており、被告は、その後、運転業務以外の軽易作業に従事するように出勤を命じた。それにもかかわらず、原告は、正当な理由もなく出勤しないのであつて、勤務に服すれば、ほぼ従前どおりの給与の支給が将来にわたり保証されるのであるから、少なくも被告会社に在籍している限り満五五歳の停年に達するまでは、逸失利益の発生する余地はない。また、原告に対しては、労災保険より年間一六二万三〇〇四円の障害年金が将来支給されるので、逸失利益は生じない。

(四) 同3(四)の慰藉料額を争う。

3  請求原因5の損害は争う。

三  抗弁

1  過失相殺

原告は、被告会社の従業員として、現金輸送車である本件事故車に警乗員として同乗中であつたのだから、「日通現送作業標準書」の定めるところにより、運転者の不注意な運転を防止すべく配慮する義務があるにもかかわらず、後部座席において居眠りしていたため、運転者豊田の居眠り運転による事故を未然に防止できなかつたものであり、この点につき三〇パーセントの過失相殺が認められるべきである。

2  弁済

原告は、請求原因4の

(1) 自賠責保険後遺障害補償金二〇〇〇万円、

(2) 公務見舞金四五〇万円、

の支払を受けたほか、

(3) 入院費用として自賠責保険より七万円、

(4) 慰藉料として自賠責保険より五四万三二〇〇円、

(5) 逸失利益補償として労災保険より一九二万円、

の各支払を受け、更に、

(6) 原告の歯の治療費の立替金残金二一万円

を差引相殺すべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実及び主張は争う。

2  抗言2の事実のうち(1)(2)は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  責任原因

請求原因2の事実は、当事者間に争いがない。

三  損害

1  入院雑費 一四万円

原告が本件傷害の治療のため一四〇日間入院したことは、被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。そして、入院雑費として一日当り一〇〇〇円を要するものとすることが相当であるから、入院雑費は合計一四万円と算出される。

2  通院交通費 一万九〇〇〇円

原告が本件事故による傷害の治療のため合計三八日以上(実治療日数)通院したことは、被告において明らかに争わないから、これを自白したのとみなす。ところで、原告の主張する通院費の内容は必ずしも明らかでないが、まず通院交通費について検討するに、これに要した費用の額を認むべき直接の証拠はないが、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨をも勘案すると、バス、電車等を利用したとしても、一日の通院につき往復最低五〇〇円を要するものと考えられるから、合計一万九〇〇〇円を下らない交通費を要したと認むべきである。

右のほか通院に伴う雑費を要したと認むべき証拠はない。

3  後遺障害に伴う逸失利益 三三二六万六〇四六円

本件事故のため、原告に請求原因3(三)掲記の後遺障害を生じたことは当時者間に争いがなく、右障害は全体として自賠責等級の六級に該当するものと評価するのが相当である。また、原告の生年月日、労働可能年数、労働能力喪失率、ホフマン係数、原告の年収は当事者間に争いがない。

いずれも、成立に争いのない乙第四号証の一、二、同第五号証の一、二、同第一四及び一五号証、証人河合操の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、前記の後遺症があり、右手指が十分に使えないうえ、右肩が上がらず、階段等の昇降が苦痛であり、通勤にも不自由を来たす状態であること、かような原告に対し被告会社は、軽い清掃等の作業なら原告においても可能でありかつ、原告の回復度合に応じて、適宜別の仕事につかせることができると考え、原告に軽作業の職場を用意して就労をうながすべく書面で出勤命令を出し、直接、被告会社の社員を介して何度も原告を説得したが、原告はこれを拒否し、結局は被告会社を自己退職したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

ところで、右認定のとおり、被告が原告でも就労が不可能といい難い職場を用意したのに、原告がこれに応じなかつたのであるから、原告の主張する逸失利益のすべてを被告に負担させるのは妥当でないが、逆に原告は通勤もやや因難な面があり、また被告会社の提供した職場でも十分に働けるとも断じ難いことを考えると、停年時までの逸失利益が全く生じないとするのも妥当でない。

これらの事実を総合して考えると、原告の主張する逸失利益のうち、被告会社における停年時までの分は、本来の収入の二分の一(原告の主張する逸失利益の約四分の三)とするのが相当である。

そうすると、逸失利益は次のとおり算出される。

(1)  五五歳まで 一五六九万八二九二円

3,951,791年収×0.5×7.9449ホフマン係数=15,698,292(円未満切捨)

(2) 五六歳から六七歳まで 一七五六万七七五四円

3,951,791×0.67×(14.5800-7.9449)ホフマン係数=17,567,754(円未満切捨)

(3) 合計 三三二六万六〇四六円

4  慰藉料 九〇〇万円

前認定にかかる原告の傷害の内容・程度、入・通院期間(弁論の全趣旨によると、通院期間は約六か月と認められる。)、後遺障害の内容・程度その他の事情を考慮すると、原告の精神的苦痛に対する慰藉料は、九〇〇万円が相当である。

以上の合計は、四二四二万五〇四六円と算出される。

5  過失相殺

いずれも成立に争いのない乙第一ないし第三号証、同第七、第八号証、第九号証の一ないし七(原本の存在も争いがない。)第一〇、第一一号証、第一二号証の一、二、第一三号証、証人山本幸三郎、同中田静男、同松原和範の各証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、本件事故は、直接には、本件事故車の運転者である豊田明の居眠り運転又は脇見運転によつて発生したものであること、本件事故時には、原告は後部座席で居眠りをしていたこと、ところで、本件事故車は被告会社の現金輸送車であり、原告もその警乗員として運転手とともに安全運転及び防犯に配慮を払いながら運行に当ることが義務づけられており、このために、警乗員は助手席にあつて右のような義務を尽くすべきことになつていたこと、また、被告会社は、現金輸送車の運転手及び警乗員に対し、朝礼、安全衛生懇談会等を通じて再三にわたつて安全教育を行い、前記の義務があることを撤底してきたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。なお、原告本人尋問の結果によると、本件事故車の場合、連絡用の無線機が助手席からでは扱いにくい状態にあつたことが窺われるが、この点は前記判断を左右するに足りない。

そうすると、本件事故については、原告にも過失があるというべく、被告に対する損害賠償額の算定にあたつては、原告の請求する損害につき、その一五パーセントを減じて算出するのが相当である。

なお、過失相殺をするにあたつて、原告の請求する費目以外の損害で既に填補された分をも加えたうえで過失割合を乗ずる方がより衡平に合するとも考えられるが、本訴においては、原被告とも原告の請求する損害のみを対象として過失相殺を主張し、あるいはこれを争つており、他の損害の数額を正確に算定することも困難であるので、本件における過失相殺としては、前記のとおりの方法で原告の過失を斟酌して、賠償額を決することとする。

そうすると、被告の賠償すべき額は、三六〇六万一二八九円(円未満切捨)と算出される。

6  損害の填補 二七〇三万三二〇〇円

抗弁2のうち(1)(2)の事実については当事者間に争いがない。

また、いずれも成立に争いのない乙第一六、第一七号証の各一、二、同第一八号証、証人河合操の証言及び弁論の全趣旨によれば、抗弁2の(3)ないし(5)の支払の事実を認めることができる。

以上の合計は、二七〇三万三二〇〇円である。

抗弁2(6)については、右掲乙第一八号証及び弁論の全趣旨にてらすと、右の支払は本件事故のため原告が被つた歯牙切損のために要した費用であつて、被告が全額を負担すべきものであり、かつ本件請求外の分であるから、差引勘定をすべきものとは解されない。また、原告が自賠責保険からの支給分として自陳する二九万二九〇三円は、一部は右(3)(4)と重複し、一部は本件請求外の損害に対応するものであるから、控除しない。

これを控除すると、九〇二万八〇八九円とする。

7  弁護士費用 九〇万円

本訴の難易、認容額その他の事情を考慮すると、弁護士費用は九〇万円が相当である。

8  合計 九九二万八〇八九円

四  結論

以上のとおりであるから、被告は、原告に対し、損害賠償金九九二万八〇八九円及び弁護士費用を除く内金九〇二万八〇八九円に対する不法行為の後であつて訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和五六年一二月一五日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきである。

そうすると、本訴請求は、右の限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩井俊)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例